“理事長が「支配人」になった夜——シティタワーズ東京ベイ『The SNACKs』が証明した、会話が生まれる装置の作り方”

このブログは新都市生活研究所のメルマガ「タワーマンションから始まる新サービス創世記」からコンテンツを再利用したものです。今回は、いつもと少し趣向を変えて、私が新都市生活研究所の代表としてではなく、自宅マンションの理事長として実施したイベント「The SNACKs」のご報告です。いつもの会社代表としての視点ではなく、事業者として企業様向けにイベントを設計する立場と、住民代表として自分の住む建物のコミュニティを設計する立場——両方を持つ私だからこそ見えてきたことを共有させてください。

【なぜ理事長として、自ら時間をかけてイベントをやるのか】

そもそも、なぜ私が自宅マンションの理事長として時間と労力をかけてイベントを企画するのか。理由はシンプルです。

マンションへの帰属意識を高め、顔見知りを増やすこと。それが防災と防犯に直結すると確信しているからです。さらにその先には、マンションの課題を自分事として捉えていただき、次期管理組合役員や災害協力隊員に手を挙げてくれる方を増やすという狙いがあります。

残念ながら、大規模マンションならどこでもやっているであろう防災訓練だけでは「誰と助け合うか」の関係は生まれません。煙の中の避難方法や消火器の使い方を学んでも、「あの階の一人暮らしの方は大丈夫だろうか」と思い浮かぶ顔がなければ、共助は機能しないのです。知識(防災訓練)と関係(住民交流)の両輪が揃って、初めて棟は強くなる。だから私は、理事長として共用部でイベントを連発しています。

2月・3月で「集まる」を確認、4月で「会話する」に挑んだ

シティタワーズ東京ベイでは、2月に【ARIAKE MUSIC NIGHT】、3月には【マグロ解体ショー】イベントを実施し、このマンションには「集まる場」を求めている住民が多いことを確認できました。2月のMUSIC NIGHTでは250名超が来場、入りきらないほどの盛況でした。3月のマグロ解体ショーではのべ800名の応募があり抽選150名にせざるを得ないくらいのニーズを確認しました。
ただ、こうした大型イベントには率直な課題もあります。「観る・浴びる」体験は熱量を生む一方、住民同士の接点は偶然任せになりがち。隣にいた人の名前を覚えている住民はほぼいません。
そこで4月は、思い切って方向転換しました。「集まる」の次は「会話する」。そのための舞台装置として企画したのが、「The SNACKs」です。

タワーマンション住民交流イベント「The SNACKs」告知ビジュアル 2026年4月28日開催

理事会説明資料の表紙。「スナックってなに?水商売イベントをするの?」という誤解を受けたくないために作りました。

「スナック」という装置を選んだ理由

スナックという業態は、いま再評価が進んでいます。日経新聞は「性別を問わず若い世代から再評価」「ニュースナック」が新業態として定着、と報じています。NOT A HOTELが東京・晴海にコミュニティベース「$NAC」をオープンするなど、最先端の企業がコミュニティの核として「スナック」を採用している現状があります。

スナックの本質は「話しても話さなくてもいい」場であること。カウンターの向こうにママがいて、自然と会話が生まれる。「みんなで仲良く」という空気が苦手な大人層にも届くフォーマットです。ファミリー向けイベントやBBQに来ない30〜50代の住民層を巻き込むには、これしかないと考えました。

The SNACKsコの字カウンターで会話する住民たち

設計:提供はすべて持ち込み、ママ8名、そして支配人1名

4月28日(火)、GW前夜の平日。20Fパーティーラウンジに、3つの島を設えました。

立ち飲みカウンター:キッチンカウンターをそのまま活用。缶ビール・ハイボール・駄菓子系。ふらっと一杯ひっかけて帰れる気軽さ。
コの字カウンター:テーブルをコの字に組み替え。シャンデリアの下でワイン・チョコレート・チーズ。スナックの王道。
ソファーラウンジ:ソファ再配置+昇降式テーブルで仮設カウンター。沈み込んでゆっくり話す島。

ママとして手を挙げてくれたのは、私以外の理事4名。さらに公式LINEとEV掲示で居住者からママを募集したところ、4名の住民が応募してくれました。理事+住民で合計8名のママ体制です。私自身は「支配人」としてスーツを着て店内を回り、各島の様子を見ながら会話のきっかけを作っていきました。
コスト削減のため、参加ルールは「一人一本以上のお酒かおつまみを持参すること」。LINE申込時にこれを例示することで、当日は驚くほど多彩な持ち寄りが集まりました。運営側の用意はベースの飲料程度で、十分に賑わい、味わえる卓が完成しました。

結果:40名超、30分延長、誰も帰らない夜

平日19:00〜21:00の開催にもかかわらず、40名超の住民にお越しいただきました。そして、ここからが本題です。
終了時間の21:00になっても、誰一人として帰らない。
結局60分延長して22:00クローズとなりました。普段のイベントでは生まれないはずの、見知らぬ住民同士の会話があちこちで生まれていました。「お住まい何階ですか?」「お子さん何歳ですか?」というシンプルな会話が自然発生的に始まっていく光景は、企画した私自身が一番驚いた瞬間です。

これは予測値ではなく、終わってみて得られた実測値です。

【最大の学び:「役割」と「場」をインストールすると、人は動く】

なぜここまで会話が生まれたのか。振り返って一番効いたのは、「ここスナックです」「あなたはママ役です」と役割と場をインストールしたことだと考えています。
「交流会」と銘打ったイベントだと、人は身構えてしまう。「話さなきゃいけない」というプレッシャーが、かえって会話を止めてしまう。一方、「スナック」と言われた瞬間、人は「あ、これは話す場だ」と理解し、ママに話しかけ、ママを介して隣のお客と話し始める。
「交流してください」と頼むのではなく、「スナックです」と場を定義する。これだけで、参加者の振る舞いが変わる。これは大きな学びでした。また、場の演出として持ち込んだ、カラオケセットも雰囲気を盛り上げるために大いに役立ちました。

このノウハウは新都市生活研究所のイベントに還元していきます

理事長として得たこの知見は、当然、新都市生活研究所が企業様向けに設計するイベントにも還元していきます。
特に、これまで「ブースに住民を呼び込めない」「企業ブランドと住民の距離が縮まらない」と感じていらっしゃる企業様にとって、「役割と場のインストール」「照明による空間転換」は、再現性のある手法です。「協賛企業のブース」ではなく「協賛企業がママを務めるカウンター」と定義し直すだけで、住民の足は止まり、会話が生まれます。

読者の皆様へ

タワマン共用部の活用、住民コミュニティの醸成、企業ブランドと住民の接点設計にご関心をお持ちの企業様。

「役割」と「場」をどう設計するか、照明や什器をどう組み合わせるか、平日夜という時間帯をどう開拓するか・・・具体的な事例ベースでご相談を承ります。

池崎 健一郎

池崎 健一郎

「日本のマンションに、もっとワクワクを」をヴィジョンとした株式会社新都市生活研究所を2021年に創業、同代表取締役。

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