
「あの夜」が止まった日のこと
会場で、ひとりの居住者と話し込んだ。音楽関係の仕事をされている方だった。
彼はこう語った。「以前は、このバーラウンジで定期的に演奏会があったんです。特に能の先生を招いた会は圧倒的だった。31階の夜景の前で能が舞われる光景は、ここに住んでいてよかったと心から思える瞬間でした」
しかし、コロナがすべてを止めた。感染対策で共用部の利用が制限され、イベントは消えた。バーラウンジの運営業者が変わってからも復活の兆しはなく、かつての賑わいは戻らなかった。「総会で問題提起しようかと思ったほどです」と、彼は静かに、しかしはっきりと言った。
この言葉は重い。
タワーマンションのバーラウンジは、購入時のパンフレットでは華やかに描かれる。しかし現実には、多くの物件で閑散としている。一人で静かに酒を傾けるには贅沢な空間だが、それだけでは「暮らしの一部」にはならない。体験が、足りない。
サックスが空気を変えた瞬間
18時30分。照明が落ち、DJ Milky-Bのビートが空間を支配し始めると、バーラウンジの空気が一変した。
サックス奏者Rayleighが音を重ねる。DJのビートに乗ったサックスの生音が31階の空間に反響し、ラウンジがナイトクラブの表情を帯びていく。立ち飲みのテーブルに肘をつきながらハイボールを傾ける大人たち。その足元では、ビートに合わせて体を揺らす子どもたち。一部の子どもは完全に踊っていた。
Rayleighはサービス精神の塊のような演奏者で、ステージから降りて来場者の間を縫うように演奏した。目の前でサックスが鳴る。その距離感は、ホールでは絶対に味わえない。マンションの共用部だからこそ成立する親密さだった。

月曜日の夜を選んだ理由
今回、あえて月曜日開催にした。
当社のイベントは通常、土日に集中する。57棟の契約物件で年間を通じてイベントを回していくと、土日は人も資材も食い合う。現場スタッフ、バーテーブル、音響機材——リソースには上限がある。この事業を持続的に拡大していくには、平日夜という新しい時間帯を開拓する必要があった。
TOYOSU MUSIC NIGHTは、その最初の実験だった。
結果として、事前申し込みで60名強。当日参加を含めて70名超。月曜日の夜にこれだけの居住者が集まったことは、一定の手応えだった。
ただ、正直に書く。私はこの数字に満足していない。
このバーラウンジのポテンシャルを考えれば、200人、300人の規模で、立錐の余地もないほどの熱気を生み出せるはずだ。ワイングラスを片手にサックスに酔いしれる大人と、ビートに乗って走り回る子ども。その混沌とした賑わいこそが、「自分のマンションで特別なことが起きている」という特別な体験になる。次は金曜か土曜の夜に、本気で仕掛けたい。

陽と陰、二つの夜をつくる
今回のTOYOSU MUSIC NIGHTは、いわば「陽」のイベントだった。DJビートにサックスが乗り、照明が煌めき、会場全体が高揚する夜。
次に構想しているのは「陰」の夜だ。照明をさらに落とし、アンプラグドの弾き語りだけが響く空間。ワインボトルをテーブルに置いて、静かに音に浸る。同じバーラウンジで、まったく異なる体験を提供する。
陽と陰。この二つのシリーズを軸に、当社が契約する各タワーマンションのバーラウンジへ順次展開していく。

「あの夜」を取り戻すために
冒頭で紹介した居住者は、別れ際にこう言った。
「次回の総会で質問して、御社をプッシュしますよ」
嬉しかった。そして同時に、身が引き締まる思いだった。
バーラウンジの「あの夜」を止めたのはコロナだった。しかし、再起動のスイッチを入れられなかったのは、仕組みの不在だ。管理組合だけでは企画力もマネタイズも難しい。バーの運営業者にとっては本業ではない。誰かが、場と企画とスポンサーを繋ぐ役割を引き受けなければ、共用部は眠ったままになる。
それが、私たちの仕事だと再確認した。
今回、入場は無料。FANTAS technology株式会社にスポンサードいただくことで、居住者に費用負担なく、質の高い音楽体験を届けることができた。スポンサー側も目的を達成し、居住者は「またやってほしい」と声を上げる。この三者が噛み合う構造をつくることが、タワーマンション共用部の可能性を開く鍵だと確信している。
31階の夜は、ようやく動き出した。
TOYOSU MUSIC NIGHT
日時:2026年4月27日(月)18:00~21:00
会場:BAYZ TOWER&GARDEN 31F Lounge & BAR
出演:Rayleigh(Saxophone)、Milky-B(DJ)
BAR運営:Barchetta 豊洲
主催:B2・B3共通団地管理組合法人
共催・企画・運営:株式会社新都市生活研究所
Presented by FANTAS technology株式会社