2025年末から、東京湾岸、特に晴海エリアの不動産市況に明確な変化の兆しが見え始めている。長らく「最強の含み益マンション」として世間を賑わせてきた「晴海フラッグ(HARUMI FLAG)」を中心に、成約坪単価や買い手の動きにどのような地殻変動が起きているのか。 長年このエリアをウォッチし続けるマンションアナリストののらえもん氏と湾岸エリア専門の不動産仲介として現場の最前線に立つFJリアルティのふじふじ太氏に、最新の市況を語ってもらった。 のらえもん氏 湾岸タワーマンションと東京湾岸エリアの生活をこよなく愛する“湾岸の妖精”。マンション購入指南本執筆や連載多数のブロガー、マンションアナリスト ふじふじ太氏 湾岸エリアのマンション売買に精通する不動産仲介会社代表。ブロガー「ふじふじ太」として、居住者目線の鋭く有益な情報を発信し続けている

エリア別「湾岸天気予報」。晴海エリアは一時的な雨模様

ふじふじ太氏によると現在の晴海エリアは「雨」。特に晴海フラッグ周辺は、これまでのような勢いは影を潜め、どんよりとした雨雲が広がっているという。この雨雲は近隣のタワーマンション群にも波及しつつあるが、駅に近い「ドゥ・トゥール」などの一部物件では、時折晴れ間が差し込むといった局所的な違いも見られる。

その他のエリアの予報は豊洲が薄曇り。晴れ間も見えるが、徐々に雲が広がりつつある。勝どき・月島が曇りで、状況によっては小雨が降り出す可能性も。有明・東雲が晴れ時々曇り。基本は晴れだが、少し陰りが見え始めているという状況だ。
興味深いのは、物件価格が比較的抑えられている東雲や有明の堅調さだ。買い手のリスクヘッジを意識した慎重な姿勢が強まっていることが伺える。

遅れてきた「2024年問題」の到来と供給過多

なぜ今、晴海が一段と弱含んでいるのか。
シンプルに供給(売り物件増加)のタイミングが重なり、結果的に需給バランスが崩れている状態なのだそうだ。のらえもん氏は、かつて囁かれていた「2024年問題」がいま形を変えて現実化していると指摘する。
当初、2024年問題とは「晴海フラッグへの一斉入居に伴い、周辺の既存マンションが売りに出され、在庫が飽和して暴落するのではないか」という懸念だった。しかし、2024年時点では旺盛な需要が勝り、価格はむしろ上昇。実際に需給バランスが崩れたのは、スカイデュオ(タワー棟)の入居が始まった「今」だった。

要因は複数ある。
まずは、スカイデュオ(タワー棟)への住み替え。スカイデュオへ当選した層が旧宅(周辺タワーマンション等)を一斉に売り出した。次に、そのスカイデュオ当選組にたくさんの即転売組がいたこと。スカイデュオ自体の未入居物件が、全戸数の約10%に相当する150戸以上も一斉に市場に出た。そこに外部環境の悪化がかさなり、中東情勢の緊迫化(アメリカ・イランの緊張)などにより、投資家が様子見モードに入った。
ふじふじ太氏によれば、現在湾岸エリア全体の募集数約960戸のうち、約44%にあたる420戸超が晴海エリアに集中している。この圧倒的な供給過多が、一時的な価格調整を引き起こしているのだ。

売り急ぎの背景にある「ダブルローン」の壁

価格調整が進む背景には、売主側の切実な事情も垣間見える。特に、住み替え先であるスカイデュオ等に既に引っ越しを済ませた層だ。
多くの銀行では、買い替えにおける「ダブルローン」の解消期限を半年に設定している。引っ越しから数ヶ月が経過し、期限が迫っている売主は、たとえ相場より安くても成約を優先せざるを得ない。この「出口を急ぐ層」の動きが、データの上の成約単価を押し下げている要因となっている。
しかし、のらえもん氏は「これは時間の経過とともに解消される、構造的な調整に過ぎない」と断言する。かつて横浜の某ランドマーク物件でも同様の在庫過多が起きたが、1年ほどかけて在庫が整理されると価格は再び上向いた。晴海フラッグも同様の軌道を辿る可能性が高い。

金利上昇と「ハウジングパラドックス」

今後の懸念材料となる金利上昇についても、興味深い見解が示された。ふじふじ太氏は、先進国で見られる「ハウジングパラドックス(金利が上がるのに価格も上がる現象)」が湾岸でも起きていると分析する。
「金利が上がる前に買わなければ」という需要の前倒しや、金利上昇によるデベロッパーの供給絞り込みが、結果として中古市場の価値を支える構造だ。また、資材不足や不可抗力による新築の引き渡し延期リスクが増えるなか、既に完成している「築浅・大規模修繕済み」の物件は、相対的に優位なポジションを維持している。

投資の熱狂が去り、住まいの本質へ

対談の最後、ふじふじ太氏は半年後の予報を「雨上がり」と予測した。世界情勢が落ち着けば、過度なマインドの落ち込みは回復し、1〜2年かけて在庫が整理されれば、価格は本来の相場へと収束していく。
特筆すべきは、買い手の質の変化だ。この2年ほど溢れていた「3割儲かる物件はどれか」という投資一辺倒の相談は激減した。代わって増えているのは、結婚や出産といったライフイベントに合わせ、「この街に住みたい」という純粋な動機を持つ実需層だという。
「儲けるための家探しよりも、新生活のための家をポジティブに探す本来の仲介の役割に戻りつつある」とふじふじ太氏が語れば、のらえもん氏も「晴海フラッグに住んでいる人の満足度は非常に高い。本質的な価値は揺らいでいない」と応じた。
晴海の「雨」は、ブームによる熱狂を冷ますための、一時的な恵みの雨なのかもしれない。在庫が豊富な現在は、じっくりと物件を選べる実需層にとって、むしろチャンスの局面とも言えそうだ。