みなさんにとって、海外旅行の楽しみは何でしょうか。 文化体験、食事、ショッピング――その土地ならではの魅力はさまざまです。 私の楽しみはずばり「教会巡り」。直近4年間だけでも160以上の教会を訪ねてきた、自称・日本でいちばん教会が好きな人間です。 教会は祈りの場であり、その街の歴史を見守ってきた存在であると同時に、絵画・彫刻・建築が一体となった「総合芸術」でもあります。 今回取り上げるのは、装飾性の強いバロック様式の中でもとりわけ芸術性が高く、劇的な空間演出を特徴とする教会たち。光と影、曲線、装飾品が織りなすダイナミックな世界は、見る人を一瞬で“異世界”へと誘います。 外界に面した一枚の扉を開けたその先に広がる、息をのむような美しい空間。今回はそんな、芸術としても楽しめるバロック教会の魅力をご紹介していきます。

■カールス教会 ―ウィーン/オーストリア

クリスマスのシーズンになると、教会の空間を大々的に使ったアート展示が行われるのも面白いです。
18世紀、ペスト終息を祈願して建立された、オーストリアの首都ウィーンにある華やかな教会。

ここの魅力はなんといっても、自然と目線が天へと向けられるような圧倒的な空間づくり、そして神々しい天界の表現です。
ちなみにこちらはオーストリアの世界遺産シェーンブルン宮殿の設計も手掛けた天才建築家、フィッシャー・フォン・エルラッハの設計です。
個人的にはTOP3に入るほど大好きな教会で、最初に訪れた時は、空間でこれほどまでに「神々しさ」を感じられるのか、と驚かされました。

■ 聖パウロ教会 ―アントワープ/オランダ


こちらも空間演出が特長的な、私のお気に入りの教会です。港町アントワープの繁栄を背景に、信仰と芸術が結びついた空間が広がる聖パウロ教会。外観は比較的控えめですが、中に入るとその異質な空間に驚かされます。
バロック様式の特長として「光と影の表現」が挙げられますが、この教会は白と黒の美しいコントラストによってそれが見事に表現されています。

パイプオルガンも美しい黒色。ゴールドのアクセントが可愛いです。

教会堂全体は真っ白な壁と天井で、華やかな天井画はないものの、祭壇や各装飾の黒色が際立ち、「ここは本当に現世…?」と思ってしまうような神秘的な世界です。

■ ロレッタ教会 ―プラハ/チェコ

バロック様式の面白いところは、時に「やりすぎ芸術」と揶揄されるところ。
こちらの教会を見ていただくと、なんとなく意味が分かるかもしれません。
世界遺産プラハ城近くにあるこちらの教会は、扉を開けた瞬間、思わずその足が止まってしまうほどの豪華絢爛、全方位から芸術が押し寄せてきます。
輝く装飾も、華やかな天井画も、この空間の中に目一杯詰め込まれ、まるで宝石箱に飛び込んだみたい。


敷地がかなり広く、遠くからでないと全体は収まりきらないのですが、均整の取れた外観も大変美しい、チェコの中でもかなりお気に入りの教会です。

■ アザム教会

ミュンヘンの街中、通りに面した木製の扉を開けると、そこにあるのはまさに異世界。バロックとロココの様式を取り入れた、華やかなのにどこか畏怖さえ感じるような天才的な空間演出が特長の聖ヨハン・ネポムク教会、通称アザム教会です。全体的に暗く、重厚で、わずかな光を受けて鈍く輝く装飾がとても美しいです。
間口が狭い敷地条件を逆手に取って、縦方向に神秘的な空間の広がりを演出しているのですが、写真中央の窓部分を見つめると、不思議と視線が奥へ奥へと、深くなっていきます。
ちなみにこの教会は18世紀頃、当時アザム兄弟という2人がほぼ私的な礼拝堂として建てたものだそうです。
ちなみに、こちらの教会は立地が特長的なのも面白いです。どんな立地にあるかというと…

大通りに溶け込み、一見通り過ぎてしまいそうですが、その扉を開けた先にこんな空間が広がっているなんて…。これだから教会巡りはやめられないです(笑)。

いかがでしたでしょうか。行ってみたい!と思っていただけた教会はありましたか?
日本人にとって教会は、どこか縁遠く、少し構えてしまう存在かもしれません。宗教的な背景や歴史を知ればもちろんさらに奥深い世界が広がりますが、難しく考えなくても大丈夫。目の前へ広がる壮大な空間、その光や色彩、天井画や彫刻に包み込まれるその体験こそが、教会のいちばんの魅力だと私は思っています。

扉を開けた瞬間、外界の音は静寂に飲まれ、シンとした清らかな空気が鼻を抜け、全身でその空間を体験することができる、まさに「体験できる芸術」です。海外旅行に行った際、もしも街中で教会を見つけたら、ぜひその扉を開けてみてください。
扉の先にはきっと素晴らしい体験が静かに待っています。