
オーディオには多少の心得がある。かつてはアンプとペアスピーカーを組み、インシュレーターやスタンドのセッティングに時間を使うピュアオーディオ派だった。だからこそ、あの日の違和感は鮮明だった。扉を開け放った空間で均一な音場をつくるには、通常なら複数のスピーカーを精密に配置し、音響調整を重ねる必要がある。それを、あの黒い箱ふたつだけで実現していた。
帰宅後すぐに調べ、NOMU hakoneで使われていた「SONOS Five」を購入した。米国発のワイヤレスオーディオブランドが誇るフラッグシップ機。6基のカスタムドライバーと専用アンプを内蔵し、単体でステレオ再生を可能にする設計だという。
空間を満たす音を奏でる
事務所に設置し、専用アプリの「Trueplay」で音響調整を行った瞬間、世界が変わった。
iPhoneのマイクで部屋の反響を測定し、スピーカーの出音を自動補正する機能なのだが、設定が決まると、Fiveから出る音が「部屋を満たす」のだ。左右のスピーカーの間に音像が浮かぶ従来のステレオとはまったく異なる体験。空間そのものが音になる。
以来、仕事中は常にこのスピーカーから音楽を流している。Spotify、Apple Musicなど、サブスクで聴く膨大なライブラリが、この一台で空間オーディオに変わる。かつてCDを買い集め、プレーヤーを選び、スピーカーのセッティングを吟味していた日々を思えば、時代は確実に変わった。そしてSONOSは、その変化にもっとも適応したスピーカーだと思う。

価格は約8万円。決して安くはない。だが1日中、仕事の傍らで鳴らし続けて1年。すでに「元は取った」という実感がある。
ピュアオーディオの世界では、同じ投資額でアンプかスピーカーの片方しか買えない。しかもそれだけでは音は出ない。SONOSは電源を繋ぎ、Wi-Fiに接続するだけで完結する。この「潔さ」が、現代の住空間には合っている。アンプやスピーカースタンドが林立するリビングより、Fiveが一台、棚の上に佇む方が、今の暮らしには似合う。
背面にはライン入力も備える。手持ちのプレーヤーを繋げば、サブスクが解禁されていないCD音源をマルチルームで家中に流すこともできる。新旧の音源を一台で統合できるのは、コレクターにも嬉しい設計だ。
大きなリビングに、本格的なオーディオを置くほどではない。けれど、スマートスピーカーの音では物足りない。そんな「中間層」にこそ、この一台は響く。
部屋を音で満たすという体験。一度知ると、戻れなくなる。

- PRODUCT INFORMATION
- SONOS Five 価格:79,800円(税込) サイズ:W364×H154×D203mm 重量:約6.36kg 対応:Wi-Fi、AirPlay 2、ライン入力(3.5mm)